2008年10月01日

「クリエイティブ翻訳」におけるコストダウン (1)

前回の記事でも述べましたが、「クリエイティブ翻訳」の過程そのものは人間が考える仕事ですから、コストダウンできる部分はそれほど大きくはありません。しかし、「創造的な生業にコストダウンなど無縁だ」というと、これはもう芸術の世界になってしまいます。ではなくて、やはりビジネスですから、いかに人間系を機械系へシフトすることでコストダウンの可能性を模索するかという視点も必要だと考えています。

今回は、クリエイティブ翻訳によるプロジェクトを進めるうえで、実践している効率化アップの取り組みをご紹介します。

まず、独創性や感性が求められる翻訳ライティングの部分ですが、これは、発想や考える過程そのものを機械系で支援することで、考えがまとまりやすくなり、作業の効率化・スピードアップが図れる場合があります。時間と手間が少なくなれば、当然人件費を削減することもでき、コストダウンへとつながるわけです。

たとえ独創的とは言え、世の中には100パーセント「オリジナル」と言えるものは存在しないのではないかと思います。どんな独創的な作品であっても、必ずそこに、それを創造せしめた源(みなもと)となる何かがあるはずです。それは、以前にみた絵画かもしれないし、幼い頃の体験や、どこかでみた美しい風景かもしれません。意識しているかいないかにかかわらず、そういった原体験が素になってインスピレーションが生まれてくるものだと思います。

ということから、「発想・思考」系の効率化のカギは、インスピレーションを与える材料の引き出しをいかに機械で管理するかです。とは言え、美術館でみた絵画すべての画像をパソコンに落とし込むというのも現実的ではありませんし、脳のなかの「記憶・思い出」に関連する部分を取り出してマイクロチップに… などという技術もありませんので、言語表現でのレベルの話になります。

人間系だけになかなか実用レベルに達するのはむずかしいのですが、自分自身の取り組みとして、業界別用語集はもちろん、口語的な言い回し、表現集、リズムの似通った単語集、また、英語のライティングでは(専門用語を除いて)同じ単語の繰り返しを嫌いますので、同義語集なども含めた「インスピレーション」支援のための簡易データベースを構築中です。

しかしながら、多分に試行錯誤の部分が多いため、現在でも構築しながら活用中ですが、正直なところ、それほど目立った効果を上げていないのも事実です。また、かなりクリエイティブ度の高いものには安易に適用できる方法ではないことも付け加えておきます。

次回は、実際に効果を上げているマニュアルなどのクリエイティブ翻訳のコストダウンについて述べたいと思います。
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2008年10月02日

「クリエイティブ翻訳」におけるコストダウン (2)

さて、人間系の思考・発想が必要な翻訳ライティングに比べて、コストダウンの可能性が大きいのがマニュアルなどの「単純作業」の部分がより多い制作物の翻訳です。

とは言え、「単純作業だから安い」など、やみくもにコストダウンできるかというと、もちろん、そんなことはありません。商品の操作や安全性、製造者責任といったことに関わる部分も大きいのがマニュアルでもあり、表現などで細心の注意が必要な文書でもあるわけです。

ですから、文字数(あるいは単語数)×単価という「単価」の部分はさほどコストダウンはできません(むしろ、下手に安くすると必ず品質に響きます)。では、どこをどうコストダウンするか―ということになりますが、それは、ずばり、翻訳する分量をいかに減らすかです。

と言っても全体の分量は決まっていますから、いかにして新しく翻訳する箇所を減らすか―つまり、重複や流用箇所を見つけるかということになります。

そういう背景から生まれたのが、いわゆるトラドス (Trados) などの翻訳支援ソフトです。翻訳メモリ(対訳リストのようなもの)に基づいて、同じ原文のところには自動的に同じ訳文が入る、グレーマッチ(よく似ている)文章には候補となる訳文が出てくるといった機能が特長です。ところが、作業に入る前に、「どの文章がどれと重複していて、重複箇所は何件ある」といったことが把握しづらいというのがコスト管理という視点からみると物足りない点でもあります。

これは、以前、発注側にいたときの経験ですが、見積依頼をすると、「だいたい合致度が○パーセントで、コストダウンできるのは全体の○パーセントぐらいですねえ。後はやってみないとわかりません」といった回答をよくいただくことがありました。確かに、大量の文書のなかから、1件1件、合致やマイナーチェンジで編集できる箇所を探せと言うのは無理な話です。

しかし、できればもっと詳細で具体的な数値(根拠)が欲しい―ということで、試行錯誤で作ってみたのが、自作「同一文章検索プログラム」の原型です。

私はプロのSEやプログラマーではありませんので、見よう見まねで MS Office のマクロを活用した簡易なものですが、現在では改良を加えて、多少時間はかかりますが、パソコンにやらせておけば8000件ほどの文章(マニュアルのページ数で200ページ程度)なら1時間ほどで、重複している文章のリストが出てきます。

もっとも、事前作業として、強制改行の調整などの原稿整理(これは手作業)がありますので、全体の時間としてはもう少しかかりますが、重複文の件数やどの文章がどれと同一であるかということが作業に入る前にわかるため、正確な作業量を把握することができます。ちなみに、ある文書を例に挙げると、文章8000件のうち1900件程度の重複箇所(親文章も含む、単語レベル除く)という結果が出ています。

また、第二段階として、同じ原稿データを用いて、同じ文章のパターンを探す「パターン検索プログラム」も自作しています。これは、同じ文章の構造をしていて、一部の単語を入れ替えるだけですむような文章のペアを探すということで、たとえば、

A) 【削除】するエントリーを選択すると、確認ダイアログが表示されますので、【「OK」】ボタンをクリックしてください。
B) 【追加】するエントリーを選択すると、確認ダイアログが表示されますので、【「実行」】ボタンをクリックしてください。

のように、A) を訳せば B) は単語の入れ替えだけですむような文章のペアを探すという作業です。

以前は、これを半自動+半手作業でやっておりましたので1〜2日かかっていましたが、今では、パソコンによる三方向からの抽出に90分(上記の文書)、パターン文章の件数は1200件程度です。

言うまでもなく、こういった重複文やパターン文の部分がコストダウンの対象となります。

その他にも効率化する方法をいろいろと試みていますが、翻訳する側にとっても、あらかじめ重複文やパターン文の詳細を把握していますから、「どこかにあったな、こんな文章」など、探す手間もなくなり、余計なことに気を取られず、翻訳ライティングに没頭できるわけです。
posted by tuben at 14:39| Comment(2) | TrackBack(0) | コストダウン

2008年10月03日

繊細に、しかしダイナミックに

あの人は細かいところによく気がつくけど繊細すぎて… あるいは、人にできない思い切ったことをやれる人だがデリカシーがない、など人間のタイプにもいろいろありますが、人材として重宝され、より信頼感や好感を持ってもらえるのが、この両方を兼ね備えたバランスのとれた人だと言えるでしょう。

それはなぜかと言うと、ずばり、言っていることがわかりやすく、逆にこちらの言っていることもよく理解してくれる。つまり、コミュニケーションしていてストレスが少ない、付き合いやすいということになります。

コミュニケーションや付き合いがしやすいということは、お互いが伝えたいところの、より深いところまで理解できるということであり、共感が生まれ、より良い関係が築けるということです。

翻訳表現にもまったく同じことが言えます。

翻訳とは、言うまでもなくコミュニケーションです。細かい言葉尻や言い回しに捉われすぎると、ポイントのぼやけた表現になってしまいます。また、肩の凝る文章にもなります。逆に、大ざっぱに処理しすぎると、とんでもない誤解が生じる、知りたいところがわからない、ぶっきらぼうなコミュニケーションになります。当然、ストレスがたまります。

あるところでは繊細に、あるところではダイナミックに―。

これが、わかりやすく、ストレスのないコミュニケーションの基本です。

もちろん、適当に繊細さと大胆さを組み合わせればいいというのではありません。それでは、「空気の読めない」コミュニケーションになりかねません。どこで、どの程度繊細になり、大胆になればいいのか、この微妙な「さじ加減」が大切です。

そして、それは、情報を発信する人によっても異なり、それを受け止める人によっても異なります。業界によっても異なり、メディアによっても異なります。人間のやることですから、感覚的なもの、暗示や示唆を含むこともあります。したがって、定量化やマニュアル化できるものではありません。しかしながら、コミュニケーション能力のある普通の人ならば普通に行うことのできる部分でもあります。

「クリエイティブ翻訳」とは、二カ国間において、こういったごく当たり前のことを当たり前に行うことに他なりません。

2008年10月07日

おかしな日本語表現

以前、国際交流の一環で、日本に住む外国人の人たちをある工場見学にお連れしたことがあります。

この人たちは、とりあえず日本語がわかるということで、工場の方が日本語で案内してくださることになりました。ところが、工場の担当者の方がていねいに説明してくださっているにもかかわらず、どうも通じていないよう気配です。もちろん、この工場の方は日本人ネイティブです。確かに、技術的な内容ですので、理解するのはむずかしいのかもしれません。あるいは、まだ日本に来て日も浅いのかもしれません。それにしても通じない、工場の方にも申し訳ない気がして困ってしまったことがあります。

こういう場合、英語が通じれば問題はありません。ところが、英語圏以外から来た人たちで、英語でのコミュニケーションも怪しいものがあります。そこで、一計を案じて試みたのが、工場の方の日本語をわざとカタコトの日本語に直してみるということです。具体的な内容は覚えていませんが、「さっき、見た、部品。→部品OK。→このライン通ってここに来る。そして、ここ、組み立てる」という具合です。

すると、全部でないにしろ、ずいぶんとコミュニケーションの通りが良くなったのです。それ以後は、工場の方が話す日本語をカタコト日本語に通訳することになったのは言うまでもありません。

また、これは仕事上でのことですが、ある台湾の方とのやりとりです。この方はいつも大量の注文をして来られる人で、「わかりました」と大変気持ちの良い返事をしてくださいます。ところが、ほんとにわかってくれているのかと思うとわかっていなかったり、コミュニケーションの誤解が頻繁に起こり、「あの人は誤解が多いから気をつけよう」という評判のあった人でした。

たとえば、電話で話していて、「それはいいです」というので「要らない」のだなと理解していれば、「いい」=「良い」から欲しいとのことだったり、こちらのシステムの流れを説明しても「はい、はい」と言ってくれるのですが、どうも不安です。そこで、「あなたこれ、必要。だから、あなた注文する、私たち送ります。あなた受け取る、お金払います。お金は○○円です」といった感じのカタコト日本語でやりとりをしていました。誤解のないように言っておきますが、これは、決して、日本語の苦手な外国人をからかっているのではありません。こうでもしないと、思ってもみない損失や手間がかかってしまうことがあるからです。

以上は、自分自身が「おかしな日本語」を使った経験でしたが、コミュニケーションにおいて大切なのは、ストレスなく通じること。そのためには、相手の言語パターンに合わせて話をする、このサービス精神が大切だと思います。逆に、日本に単身赴任していた英語圏の人が日本人にわかるような英語ばかりを使っていたら、帰国したときには「赤ちゃん英語」のようになってしまい、奥さんもびっくり、「あなた、日本でいったい何があったの?」と言われたというような笑い話もあるようです。

もちろん、実際の翻訳にカタコト英語や日本語を使うというのではありません。一口に日本語(英語)表現と言っても、そこにはいろんな要素があります。自分たちの思考・表現パターンで一方的に話をしても、それがそのまま通じるわけではないという認識が大切だと思うのです。
posted by tuben at 16:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 翻訳表現